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2010年03月08日

初恋の人

もう随分昔のことよ。まあ君が生まれるよりずぅっとずっと前、おじいちゃんがまあ君くらいのこと・・・遠すぎて分からんじゃろう。それくらいのこと、戦争言うのがあったんじゃ。アメリカとな中国と、あとはオランダとイギリスじゃったか、おお、そうじゃ、あのアメリカじゃ中国じゃ。
ケンカしよったんじゃ、ようけことピストルとかの、戦艦とかゼロ戦言う飛行機こさえての、おじいちゃんのいとことかな、隣の仲良うしよった兄ちゃんとかの皆、こないな服着て手ぇ振って汽車に乗って行っての、船でサイパンとかラバウルとかの南の島に行っての、必死で戦いよったんじゃ。

なんで言うて、そうせなしょうがないよになってしもたんじゃ。
みんなホントはの、しとない思うてもの、一生懸命ケンカせないかんなったんじゃ。
わしらもの、大きになったらな、隣の兄ちゃんみたいにカッコように服着ての、ほりゃ~言うて戦わないかんと思うとった。
ほおじゃ、死ぬかも知れんけどの、いかないかんのじゃと思いよった。棒切れ拾てはの、鉄砲じゃ思うて皆と兵隊さんごっこして遊んでの、そがいなこと思いよった。

ひもじかったなぁ、ひもじかったぞよ。
まあ君みたいにの、お菓子やらも食えなんだしの。ご飯も麦よ。麦やったらの、これが腹が空くんじゃ。もうの、学校終わる頃にはのひもじいてひもじいての。ぐぅぐぅぐぅぐぅ腹の虫言わせながら戻んて来よった。ほんだけ腹が減っとっても、おじいちゃん、芋の茎だけは嫌いでの、ほじゃ、あの葉っぱと茎よ。あれを炊くんじゃ。肉なんか入ってないわい。汁とそれだけ。あれが嫌での、ついそっぽ向いたんじゃ。ほいたらの、ひいじいちゃんが怒って怒って。
「もう食わんでええんじゃ」
言うてぜ~んぶのけられてしもたときはの、たまらなんだわい。ほいでの、家の前での、しゃがんでめそめそ泣きよったらの、向かいの同い年の女の子、ハナちゃんが手ぬぐい出してくれての、
「どがいしたん?そがい泣かれんや」
て、訳を聴いてきたけんこれこれこうじゃと話したらの、手ぇ引いて自分とこの塀の中にわしを連れてって、
「言われんで」
言いながらおむすびこさえたんをの、渡してくれての。
「秘密やけんね」
と、わしが食い終わるまで知らんフリして見えんように立ってくれての、助けてくれたんじゃ。あのおむすび、米じゃった。どがいに持ってきてくれたんかしらなんだけど、あれはのぅ、堪えた。旨かった。もうな、犬ころみたいにのがつがつがつて食うたわい。ホントの、気が付く女の子じゃった。

ほじゃけどの。
わしらの家がの、田舎にの引っ越しての、アメリカとかの飛行機に撃たれたらいかんけんの、逃げとる間にの。
み~んな死んでしもた。ハナちゃんも、ハナちゃんのお父さんもお母さんも。隣の兄ちゃんの妹も。
み~んな不意にねきに爆弾落とされて真っ黒になっとったっていよったわい。
戻んてきて「ハナちゃんおらんなった」と聴いたときはの、悔しいての、河原の土手を「わ~」言うての背ぇにリュック負ぶたまま走った。

おじいちゃんのうちもの、戻んてきたらように燃えてしもとっての、向こうのほうのお城山までなぁ綺麗に見えるようになってしもとったわい。
ほうよ、あの城山よ。あれがの、くっきりの、よう見えた。
あこまでな~んも無かった。
信じられんじゃろう。
そんなになってしもたんよ。みんなとケンカしたらの。

お兄さんはの、見つからなんだ言よったわい。
島のジャングルでマラリアになって置いてかれて、戦争終わってから探しに行ったけど、骨も見つからなんだとの、聴いた。
カッコように、一生懸命戦ったけどの、最期はそうじゃったんじゃと。
おじいちゃんがまあ君ぐらいのときはの、そんなかったんよ。




※フィクション(妄想)です。ご容赦ください。


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Posted by まさる(;^_^A at 20:53│Comments(0)小説
 
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