2012年08月15日
野辺送り
「なぁ父さん、さっき田舎から電話があってなぁ」
なぜか不気味な黄色い陽射しの夕焼けが、部屋に差し込んでいた。作業着の父親がどうした?と言う顔つきでこちらを見据えた。
「じいちゃん、死んだって」
「そうか」
薄気味悪い明るさの部屋で、会話が途切れた。
夜、親子2人、田舎への旅路を急いでいた。綺麗な山の星、シルエットのような森の輪郭、毎年、弾む気持ちで通った夏の国道を、黙々と走る。
何だか実感のわかない私と全てを受け止めたような父の、ふわふわと噛み合わない想い出話が続く。刹那、突然、車のオーディオが不調になる。CDが音飛びして全く言うことを聞いてくれない。出来すぎたように、曲はスタレビの木蘭の涙だった。・・・ああ、じいちゃんかなぁとこじつけて、とにかくハンドルを左へ右へカーブに合わせる。
家の前の狭い坂道をライトで照らしながら車で上がる。父と同い年と言う大きな松の木を交わし、庭に車を停めると、玄関をがらがらくぐる。ひんやりした土間を進みガラス戸を開けたら、おじさんおばさんたちが居て。
「おお、来てくれたか」
隣の広間へ行くと地元の親戚さんと、横たわる祖父が居た。
静かな、眠ったような、それと言われなければ分からないような顔で祖父は佇んでいた。何だか整理がつかない。どうにも触れても見つめても実感が湧かない。みんなが話す始終を聴いているはずが、次々と脳裏を右から左へ通りすぎる。父がどんな顔をして居たかも気づかないまま、じっと座って奇妙なひとときを過ごした。
父は残ると言うので、私はひとり車でもと来た道を取って返したはずなのだが、すっぽり記憶が抜け覚えていない。
数日後、改めて母や弟とともに私は田舎にやってきたはずなのだが、車を停めたところしか思い出せない。お葬式の邪魔になるので、下の広い道に停め家に歩いたはず。眩しい夏の日だったはず。
お葬式の始終はわりに覚えている。久しぶりに会ったいとこたちは、お棺の祖父との対面で泣き崩れていた。僕はその時もなおどうにも祖父の死を理解できず、心が麻痺したままだった。
お葬式が終わると、行列を組み町の下まで歩いた。うちらいとこ連中でお棺を担いだその時もなお、よく分からないまま歩いていた。スーツが暑い、眩しい夏の日だった。旗のまっさらな白と真っ青な空が今なお脳裏に浮かぶ。
あれから12年。
あの野辺送りを最後に田舎の家に帰っていない。お墓には気が向いた時にドライブついでに出掛けては、タバコのわかばを供えて手を合わせる。
実は、未だに祖父の死を本当は理解できずに居る。あの家ごと心の外に封印されたように、どこか他人事のように。
もう一度あの夏へ帰りたい。もうそこに故郷はないのに。
きっとその事実を確認したとき、始めて祖父の死は理解されるのだろう。
なぜか不気味な黄色い陽射しの夕焼けが、部屋に差し込んでいた。作業着の父親がどうした?と言う顔つきでこちらを見据えた。
「じいちゃん、死んだって」
「そうか」
薄気味悪い明るさの部屋で、会話が途切れた。
夜、親子2人、田舎への旅路を急いでいた。綺麗な山の星、シルエットのような森の輪郭、毎年、弾む気持ちで通った夏の国道を、黙々と走る。
何だか実感のわかない私と全てを受け止めたような父の、ふわふわと噛み合わない想い出話が続く。刹那、突然、車のオーディオが不調になる。CDが音飛びして全く言うことを聞いてくれない。出来すぎたように、曲はスタレビの木蘭の涙だった。・・・ああ、じいちゃんかなぁとこじつけて、とにかくハンドルを左へ右へカーブに合わせる。
家の前の狭い坂道をライトで照らしながら車で上がる。父と同い年と言う大きな松の木を交わし、庭に車を停めると、玄関をがらがらくぐる。ひんやりした土間を進みガラス戸を開けたら、おじさんおばさんたちが居て。
「おお、来てくれたか」
隣の広間へ行くと地元の親戚さんと、横たわる祖父が居た。
静かな、眠ったような、それと言われなければ分からないような顔で祖父は佇んでいた。何だか整理がつかない。どうにも触れても見つめても実感が湧かない。みんなが話す始終を聴いているはずが、次々と脳裏を右から左へ通りすぎる。父がどんな顔をして居たかも気づかないまま、じっと座って奇妙なひとときを過ごした。
父は残ると言うので、私はひとり車でもと来た道を取って返したはずなのだが、すっぽり記憶が抜け覚えていない。
数日後、改めて母や弟とともに私は田舎にやってきたはずなのだが、車を停めたところしか思い出せない。お葬式の邪魔になるので、下の広い道に停め家に歩いたはず。眩しい夏の日だったはず。
お葬式の始終はわりに覚えている。久しぶりに会ったいとこたちは、お棺の祖父との対面で泣き崩れていた。僕はその時もなおどうにも祖父の死を理解できず、心が麻痺したままだった。
お葬式が終わると、行列を組み町の下まで歩いた。うちらいとこ連中でお棺を担いだその時もなお、よく分からないまま歩いていた。スーツが暑い、眩しい夏の日だった。旗のまっさらな白と真っ青な空が今なお脳裏に浮かぶ。
あれから12年。
あの野辺送りを最後に田舎の家に帰っていない。お墓には気が向いた時にドライブついでに出掛けては、タバコのわかばを供えて手を合わせる。
実は、未だに祖父の死を本当は理解できずに居る。あの家ごと心の外に封印されたように、どこか他人事のように。
もう一度あの夏へ帰りたい。もうそこに故郷はないのに。
きっとその事実を確認したとき、始めて祖父の死は理解されるのだろう。
Posted by まさる(;^_^A at 23:17│Comments(0)
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