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2012年11月03日

ワンシーン

かたん・・・かたん、かたんかたん、ふぃーーん。

また今日もいつもの朝。殺伐さがてんこもりの通勤快速。ただひとつ違うのは、スーツでなくて棚から一掴みした普段着を纏ってるってこと。
鍵は閉めた、電話は留守にした、ガスは元栓ひねった、タバコも消した。けれど、炊飯ジャーは空っぽ。冷蔵庫もすっからかん。なんだか朝から夜逃げしてるみたいだ。

窓の外、下品な酔いを無理矢理洗い流したよな下町が通りすぎていく。汚れた空気の余韻がため息混じりの通勤気分と溶け合ったようなただれた街。もうすぐだ、もうすぐ胸いっぱい新しい空気を吸い込める。こんな分刻みの人民輸送列車から、線路が分岐していく。
空の高さをビルで測るようになったのはいつのことだろう。時の速さを車窓で計るようなったのも。それももう、今日でおさらばだ。

おさらばか。
大袈裟な。
都落ちじゃないんだぜ。
や、都落ちか。
もう、ここで暮らせそうもないもんな。

知らぬ間に停まった駅で、新たに人が詰め込まれていく。まるで人間押し寿司だ。なんでこんな思いしてまで昨日までスーツ着てたんだろう。接吻の距離まで近づいた二日酔いのホワイトカラーたちの疲れた顔が、無性に哀れに見える。吐く息までカネの香りがしてる。嫁のため?こどものため?孫のため?意味なく背中越しの宙吊りを捉えた眼差しが痛々しい。

かたん・・・かたん、かたんかたん、ふぃーーん。

「ご乗車ありがとうございます。この列車は・・・」
気だるいアナウンスが客車の天井をこだまする。
僕はただひたすら線路が分岐していくのを待っていた。


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Posted by まさる(;^_^A at 21:21│Comments(0)小説
 
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